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歯の神経を残すための治療 MTAセメント

歯の神経を残すための治療 MTAセメント

歯の構造について

歯の構造について考えたことはありますでしょうか?冷たいものが染みたり、虫歯によって痛みが出ることからわかるように、「歯」というものは器官であり、神経と繋がっています。
おおまかに分けると歯は三層の構造をしており、表面のエナメル層・中間の象牙質(ぞうげしつ)の層・歯髄(神経と血管)の層があります。
虫歯は表面の層から進行していくので、表面だけの虫歯は痛みが出ないので気づかない場合があります。これが象牙質を経て歯髄の層まで虫歯が進むと、しみたり痛みがでたりします。ここで大抵の人は「自分は虫歯なんだ」と気づかれて歯医者を受診される場合が多いのですが、神経まで虫歯が到達してしまった場合、歯の神経を抜くことも考えなければなりません。

歯の神経を取ったらどうなるの?

歯髄(神経と血管)の治療を行うと歯がもろくなってしまいます。諸説ありますが、歯質を削れば削るほど、歯の耐久力は弱くなります。そのため、神経を取った歯は大きく歯質を失うため、脆くなってしまいます。木の枝に例えると、木から伸びる生きた枝はしなりがあり強いですが、枯れてしまうと簡単に折れてしまうように、歯も抜髄を行うと寿命が一気に短くなります。

科学的根拠からも明らかで、歯髄の処置がされた歯は処置されていない歯に比べると、歯を失ってしまうリスクが約7倍高いということが研究で明らかにされています。(※1)

だからこそ、自分の大切な歯を残すためには歯髄を可能な限り残す治療が望ましいと言えます。


※1 RCF teeth had substantially worse survival than their non-RCF counterparts (p<0.001), with a greater effect of RCF status evident among molars than non-molars. Adjusted hazard ratios (95% confidence intervals) for loss of RCF versus non-RCF molars and non-molars were 7.4 (3.2–15.1) and 1.8 (0.7–4.6), respectively.
引用元: 根管充填歯と非根管充填歯:生存期間の遡及的比較 J Public Health Dent 2005;65(2):90-96.

MTAセメントによる歯髄温存療法

これまでは虫歯が少しでも神経に達してしまうと、抜髄(歯の神経と血管をとる処置)をして、歯の根っこに詰め物をした後大きな被せ物をするしか選択肢はありませんでした。そんな中、なんとか歯の寿命を伸ばしたい・歯髄を残したいというたくさんの方の願いが実現されつつあるのが、MTAセメントによる歯髄温存療法です。
虫歯を完全にとりきった後、歯髄の層の表面にMTAセメントと呼ばれる特殊な詰め物で蓋をして、最終的にきれいな被せ物を行って治療終了となります。
歯の神経の治療を回避できるので治療回数も格段に減りますし、神経を温存することもできる画期的な治療法です。

MTAセメントのメリットとデメリット

メリット1. 治療回数を減らせる

人によっては一番大事なポイントだと感じるのではないでしょうか。先ほど示した通り、保険治療では虫歯が神経に到達している時点で根っこの治療に移っていきます。根っこの治療は複雑なので基本的に3〜4回、その後土台をたて被せ物を作っていくためトータルで6〜7回の治療が必要になります。一本の治療だけに3ヶ月以上かかって長かったという経験がある方もいるかもしれません。
MTAを使用した場合、(1)虫歯治療・(2)MTAを使用・(3)被せ物を作る で済みますので3回程度で終了します。根っこの治療が必要ないのでおよそ半分の期間で治療を完了できます。

メリット2. 歯を削る量を抑えられる

みなさんのイメージ通り、歯は削れば削るほどもろくなっていきます。従来の治療を行うと、第一に神経や血管の処置をすることにより歯は弱くなり、さらに根っこの治療後の被せ物は一番大きいものを使用するため、それの形作りのために追加で歯を削らなければいけません。歯の寿命を考えると、歯に与えるダメージは少ない方が良いですよね。

メリット3. 歯の寿命を伸ばせる

これらのメリットはあるものの、MTAを使った治療は自由診療となり、一回の治療でのコストは高くなります。しかし、長期で見てみるとどうでしょう。
有名な歯のサイクルを図にあらわしたものがあります。だんだん虫歯が進行していき、被せ物が大きくなっていって最終的に歯の寿命(抜歯)がくるといったものですが、歯の寿命が来た後はどうなるでしょうか?入れ歯・ブリッジ・インプラントなどの治療法が挙げられますが、同様もしくはそれ以上にコストがかかるうえ、ご自身本来の歯に比べると人工物であるため100%元通りにはなりません。
歯がなくなった後の治療は難易度も高くより一層のコストがかかってくるので、歯のサイクルを少しでも遅くするためにはMTAを使った治療を受ける価値は高いと考えます。

MTAセメントのデメリット

MTAは全ての症状に対応できるわけではなく、適応できるかどうかも実際に虫歯部分を見てみないと判断ができないため、患者様の要望通りにできない場合があります。また、自由診療になりますので治療費が高くなり、MTA治療の他にも詰め物・被せ物の費用も必要になるので、一般的な根管治療より高額になります。
また、稀にですがMTAを使った治療が一旦うまくいったとしても、場合によっては数ヶ月後・数年後に治療した歯が失活する場合があります。

MTAセメントの特徴

MTAセメントの優れた封鎖性

歯の根の治療において、歯髄の空間をキレイにした後は再び細菌が増えないように封鎖しないといけません。
従来の保険治療ではガッタパーチャと呼ばれる材料で封鎖していました。ガッタパーチャには薬効成分はなくただ詰め込んで封鎖をするだけの材料で、接着性がないのでしっかりと封鎖するのが難しいです。そのためシーラーと呼ばれる介在する材料を共に使用していました。MTAセメントは膨張しながら硬化するため緊密に空間を封鎖することができ、細菌による感染を防ぎます。

MTAセメントの殺菌作用

ph12と強アルカリ性の性質をもつため、口腔内の細菌のほとんどを死滅することができます。MTAは色々な使用方法がありますが、歯髄保存療法で使用した場合、感染した歯髄を殺菌し健康な歯髄を残すことができます。

MTAセメントの高い生体親和性

長期間体内に存在する材料なので、体に害を与えるものであってはいけません。MTAセメントは長期間の安定性に優れており、生体に対する親和性は非常に高いことがわかっています。また、硬組織をつくる作用もあるので、破壊されてしまった歯質の再形成も期待できます。

MTAセメントの親水性

私たち歯医者が常に気を付けているポイントとして「湿気」があります。口の中は主に唾液によって湿潤状態に保たれており、これは口の中の健康を保つためには非常に重要なことですが、歯科で使う材料は完全に乾燥した状態でしか最高のパフォーマンスを発揮しないものがほとんどです。歯の治療で歯に風を当てる処置を受けた覚えのある方も多いと思いますが、これは治療部分を乾燥させる意味も持っています。
保険適用の白い詰め物(コンポジットレジン)・被せ物をつける際に使用するセメント類・型取りの材料など…ほとんどが唾液によりパフォーマンスがかなり落ちてしまいます。MTAセメントはその湿気に対して抵抗性があるので、口腔内という状況下でも高いパフォーマンスを発揮できます。

MTAについてのQ&A

Q.もう歯の神経をとる処置はしなくていいんですか?

A.虫歯の進行によります。虫歯により歯髄が深くまで感染してしまっている場合、残念ながらMTAセメントは適応とはなりません。従来の歯髄の治療が必要になってきます。はやめの虫歯発見と治療が大事なので一度受診してチェックしてみましょう!

Q.MTAセメントを使えば絶対に歯の神経は残せるんですか?

A.残念ながら絶対ではありません。MTAは優れた歯科材料ですが、どんな虫歯にも適応するものではありません。ですから、一旦治療が成功しても、治療後数ヶ月は経過を注意深くチェックする必要があります。痛みや歯の変色などの症状がでた場合、根の治療に移っていきます。

Q.MTAセメントで神経を残せなかった場合はどうなりますか?

A.MTAセメントは、現在確実に神経を残せる治療とはいい切れません。そのため、治療の前に歯髄が温存出来ない可能性についてご説明し、同意の上でのみ治療を行います。その上で歯髄温存治療をしたものの、結果として神経が死んでしまった・歯髄の生活反応が見られない場合には、差額で自由診療の精密根管治療を受けていただくことができます。

Q.MTAって何でできてますか?

A.ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウムを主成分とし、他には酸化ビスマス、石膏等です。

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